誰もが一度は歌声を耳にしたことがあるであろうアーティスト、ジョン・レジェンド。ジョンの作る音楽を一言で表すのであれば、それはオーセン・ティックという言葉が相応しい。時代の流れに合わせ、その都度、作品を通してメッセージを発信し続けているジョンの音楽は、まさに“本物”という言葉がぴったりだ。
音楽一家で育ち聖歌隊での経験
物心ついた頃から音楽に触れていたジョン。母親は教会の聖歌隊のディレクターを務め、父と祖母はそれぞれ同じ教会でオルガンとドラムを演奏していた。そんな環境で育ったジョンは、祖母からピアノやゴスペルを教わり、自身も聖歌隊で演奏をするようになる。
学生時代も音楽に親しみ、大学では、アメリカにある大学のアカペラグループの中でも上位に入る存在のチーム「ペン・カウンターパーツ」というアカペラグループに所属し活動をしていた。
この大学時代にジョンは、自身の音楽観を決定づけるようなキーパーソンと出会うことになる。一人目は、ローリン・ヒル。ジョンが手伝っていた教会に来ていた友人の同級生だったローリン。友人が引き合わせてくれたのがきっかけで、ジョンはローリンとスタジオに入り、ローリンの目の前で弾き語りをする。その演奏をとても気に入ったローリンは、自身のアルバム『The Miseducation Of Lauryn Hill』に彼を参加させ、「Everything is Everything」のピアニストとして出演したのだ。
ジョンの音楽史を語る上で欠かせない大きな出会い
これを経て、彼はジョン・スティーヴンス名義で活動をスタートし、インディーでアルバムのリリースやライブなどをするようになる。そして、2002年にジョンのニューヨークでのライブを収録した『Live at Sob’s』をリリースした。このアルバムには、ジョンの音楽史を語る上で欠かせないもう一人の人物、カニエ・ウエストが曲作りで参加をしている。ジョンと同じ大学に通っていた友人の従兄弟だったカニエ。ジョンと同じくデビュー前だったカニエも自身のデモテープを作成していた。友人を通じて出会った彼らは、デビュー前から互いの音楽性に惹かれ合い、影響を与え合う関係性になったのだ。
学生の頃から、その光る才能に音楽シーンから注目を集めていたジョンだが、卒業後は、一流企業であるボストン・コンサルティングに就職。働きながら、作曲活動やライブ活動を続けていたが、2004年にカニエのバックアップのもとで、デビューアルバム『Get Lifted』をリリースする。全米4位というヒットを飛ばし、第48回グラミー賞最優秀新人賞を含む3部門を受賞した。
一気にスターダムの階段を登ったジョンは、その後もヒットを飛ばし続け、グラミー賞も、デビューから今に至るまで30度近くノミネート。恋愛ソングを数多くリリースし、男女ともに人気を集めてきたジョンだが、それだけではない。
音楽で政治的・社会的なステイトメントを発信
2010年にはザ・ルーツとともに、ニーナ・シモンやダニー・ハサウェイをカヴァーしたアルバム『Wake Up!』をリリース。60年代〜70年代のメッセージ性の強い曲をピックアップし、リリース当時のアメリカの社会問題に関して、「目を覚ませ!」と社会全体に問いかけた。また、2014年にはマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の伝記映画『グローリー/明日への行進』のテーマ曲「Glory」のリリース、アメリカの奴隷制度を描いた映画『それでも夜は明ける』のサウンドトラックの監修など、2008年にバラク・オバマ大統領の公式サポートソングを提供したのをきっかけに、音楽を通して、政治的・社会的なステイトメントを数多く発信していった。
『グローリー/明日への行進』がアカデミー主題歌賞を受賞した際のジョンのスピーチでの一説、「自分が生きている時代、今起こっていることを自分の作品に反映させなければいけない。それが私の使命だと思っている」とニーナ・シモンの発言を引用し、スピーチを締めたジョン。まさに、この使命の担う次世代のレジェンドとして、これからも活躍し、たくさんのメッセージを残していくことだろう。
歴史に残る傑作「Bigger Love」
いまだ全世界で猛威を奮うコロナ。そして、BLACK LIVES MATTERとさまざまなことが日々起こる中でリリースされた7作目となるアルバム『Bigger Love』は、大部分が2019年にレコーディングされているものの、タイトルに込められた意味の通り、今の時代に相応しいものとなった。
Dr.ドレーが2000年にリリースした大ヒット曲「The Next Episode」をサンプリングした「Actions」から始まり、ゲイリー・クラーク・ジュニアがギターを奏でる「Wild」、そして、ジャネイ・アイコとの「U Move,I Move」、ジャマイカ出身の新進気鋭のプロデューサー、コフィーとの「Don’t Walk Away」など、ジョンが信頼を置くさまざまな世代のアーティストを集めた作品である。
なかでもアル・グリーンへのオマージュとして作られた「Remember Us」は、コービー・ブライアント、ニプシー・ハッスル、ノトーリアス・B.I.G.などへの愛情や失った悲しさを歌った一曲。後生に残したい一枚がここに誕生した。一度見たら忘れられない、チャーリー・パーマーが描いたジャケットのアートワークも必見。