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アンダーソン・パーク&ザ・フリー・ナショナルズ @ 恵比寿LIQUIDROOM 2016年9月21日
去年、ブラック・ミュージック界隈で話題をかっさらった人物と言えば、2014年末に再降臨した救世主ディアンジェロと、蝶に羽化したケンドリック・ラマーだったが、2016年の主役は間違いなくアンダーソン・パークだろう。今年の頭に登場したアルバム『Malibu』は期待というハードルを難なく飛び越えて見せた傑作であり、今年のベストアルバム・リストの上位候補に即座に入れた人も少なくなかったはず。
更にマック・ミラー、スクールボーイQ、ケイトラナダ、ドモ・ジェネシス等ヒップホップ周辺の注目アーティストのアルバムで名客演を重ねており、彼の名前が乗ったシングルは軒並みヒットしている。その上ノレッジとのユニット、ノーウォーリーズとしてのアルバムも来月に控えており、そちらも今後シーンを揺さぶる重要作になるのは明らか。
アンダーソン・パークのツイッターをフォローしているとわかるが、彼は今年驚くほどの多忙なツアースケジュールをこなし、世界各地を巡っている。米国やヨーロッパの主要フェスから、人気米トーク番組の音楽ゲスト枠まで、様々なステージに自身のバンド、ザ・フリー・ナショナルズと共に立ち、『Malibu』の楽曲などを披露してきた。
そんな時の人の初来日公演ということもあり、9月20日のWWW Xでの公演のチケットはあっという間に完売。21日深夜のLIQUIDROOMでの追加公演が急遽決定したときは筆者もほっと胸を撫で下ろしたうちのひとりであった。



LIQUIDROOMでの公演は開始時間丁度くらいにスタート。オレンジ色の派手なシャツを着たアンダーソン・パークがステージに現れると、ド頭からヘヴィーなファンク・ナンバー「Come Down」で会場を一気に盛り上げた。バックバンドのフリー・ナショナルズはギター、ベース、キーボード、そしてDJという編成であり、DJは曲によって電子ドラムパッドの演奏も担当していた。トラックの骨組みのようなものをDJがかけているところにメンバーが生演奏を重ねる曲もあれば、DJがかけているトラックのみでアンダーソン・パークが歌うという曲もあり、DJ+MCというヒップホップ的ライブと、生バンド・ライブの良いトコ取りと言える見せ方をしていたのが印象深い。
前半は2014年のアルバム『Venice』収録の「Milk n’ Honey」や「Drugs」など、トラップ〜ベース・ミュージック系の楽曲を立て続けに披露し、ステージ前はモッシュピット状態に。その後は『Malibu』の「The Season / Carry Me」や、「Heart Don’t Stand A Chance」、「Put Me Thru」などのソウルフルな楽曲を次々と。「The Water」、「Without You」、「The Bird」、レゲエ・ダブ風味にアレンジされた「Room In Here」などを、半分はステージ中央でマイクを握りながら、もう半分はドラムを叩きながら熱唱。




発声は音源で聴くのと同じくらい、いやそれ以上とも言えるほどにキレがあり、独特なハスキーかつハイトーンなシンギングラップがビートの隙間を軽やかに進む。回転しピタッと止まったり、腕を様々な形に曲げたりと激しく踊りながら歌うが、そのなんとも言えない間のとり方が独特であった。アンダーソン・パークのドラミングはときにタイトでグルーヴィー、ときに高速で派手だが、常に絶妙で心地良い所に音を鳴らしてくれる。元々シャフィーク・フセインのバンドのドラマーとして活動していた経歴が、彼を唯一無二のパフォーマーに成長させていた。
歌やドラム演奏の腕は期待通りであったが、「手を上げろ」といったヒップホップ的な煽り方もすれば、自身が誰よりもノリノリに踊ってみせたり、ドラムの圧倒的な演奏力で観衆を翻弄させたりと、場の盛り上げ方も実に巧みであり、手数の多さで飽きさせない。後半はケイトラナダのアルバムからの「Glowed Up」や、『Malibu』のディスコ・ナンバー「Am I Wrong」、「Lite Weight」、『Venice』からのダンサブルな「Luh You」といった選曲で、フロアの動きを一瞬も止めなかった。「Am I Wrong」の最後には「Let’s Dance」のフレーズを忍ばせ、デヴィッド・ボウイへの追悼も。
ノーウォーリーズの人気曲「Suede」で会場は大興奮の渦に。最後は「Dreamer」で心地良く締めてくれた。





ライブの主役はもちろんアンダーソン・パークだが、彼は意識的にフリー・ナショナルズのメンバーにもスポットライトをあてていると感じた。メンバーのソロ演奏の時間があっただけでなく、曲紹介で元カノについてギタリストをいじってみたり(ライブでお決まりのパターン)、メンバーと喧嘩をする演出をしてみたりと掛け合いが面白く、下積み時代から共に歩んできた仲間である彼らの絆の深さを感じた。
汗を垂らし、最後までエネルギッシュに自身の全てをマイクに、そしてドラムにぶつけていたアンダーソン・パーク。彼のような才人を天才と呼んでしまうのは容易いが、長いことうだつが上がらない時代を耐えてようやく掴んだチャンスを現在最大限に活かしている彼の音楽には、並々ならぬ努力が染み込んでいることを忘れてはならない。どうやら来日していたDJプレミアもこの日会場に足を運んでいたそう。次にアンダーソン・パークが来日するときに立つステージは、フェスになっていそうだ。
Words by Danny Masao Winston
Photos by Taio Konishi
アンダーソン・パーク&ザ・フリー・ナショナルズ @ 渋谷WWW X 2016年9月20日






Photos by Ray Otabe