渋谷の大型クラブSOUND MUSEUM VISIONや、テクノ&ハウスミュージックを中心としたクラブContact、渋谷駅1分にある東京カルチャーを発信するDJ BAR Bridge、ヒップホップ好きな大人が集まる社交場WREPなど、渋谷の夜のミュージックシーンを牽引するクラブやバーを作ってきたGlobal Hearts代表の村田大造氏。
遡ること1990年代には西麻布SPACE LAB YELLOWや渋谷Cave、代官山AIRなど、伝説のクラブをいくつも手がけ、そのキャリアは30年以上に渡る。そして、昨年2019年の年末、Global Hearts新宿1店舗目となる店舗をオープンさせた。その名もDJ BAR Heart。新宿に新店舗を出店した理由と今後のプランなど1時間以上に渡って話を聞いた。人の繋がりの重要性、音質へのこだわり、さらにシーンに対しての責任まで、氏が今想っていることを話してくれた。
昨年の11月末に、DJ BAR Heartをオープンしましたが、どういうお店なのですか?
DJ Barなんですが、DJがリアルタイムに音楽をかけてるのを聴きながら、その音をみんなで共有しながら仲間を作っていけるようなお店を新宿に作りたかったんです。音響はかなりこだわっていて、レイオーディオの最上級クラスのセットを組んでいるので、他店と比べても音質は圧倒的に良いです。だから音楽の良さを伝えていき、それを酒のつまみにして、友達が増えていくようなお店になってくれれば良いかなと思っています。
同じDJ Barで渋谷にあるBridgeとかWREPと違うところは、お酒にこだわりを持っていて、 自家製のフルーツドリンクとか薬膳酒とか、体に優しいようなものも入れています。
渋谷で大箱のVISIONを作られて、音楽IQが高いクラブContactも作られました。このDJ BAR HeartはBridgeくらいのサイズですが、どのようなお店を目指していますか?
Contactは4つ打ちのイメージが強くて、海外で活躍してるようなアーティストを招聘するような箱ですよね。Heartの場合はそういう海外アーティストを定期的に呼んだりするのではなく、日本人のアーティストで基本月1だったり月2だったり帯で組んでいます。Bridgeの路線に近いですね。ただ、Bridgeは40坪なんですけど、ここは60坪。一回り大きいので、Bridgeよりももう少しクラブテイストが週末なんかは強くなる。だから照明とかムービングの数も多くて、DJ Barといっても、かなり盛り上がるときはもうクラブ状態にまで持っていけます。



お店の真ん中にガラスの扉がありますね。常にオープンしているんですか?
通常は開けていますね。お店を2つに分けて使うこともできるようにして、どちらにもDJブースがあります。まあ基本的には1つの部屋で1DJ。中にはDJの繋がりで奥の部屋で誕生日パーティーやったりとか、別のパーティーをやりたいとかっていうニーズもあるので、対応できるように設計しています。
20年前の新宿にはリキッドルームがあり、音楽偏差値の高いクラブがたくさんありました。現在はクラブのイメージは少ないですが、新宿でこうやってお店を出そうと思った理由は何ですか?
新宿は渋谷以上に外国人が宿泊してるし、ハブになっているんですよ。どこに出るのも楽だから、ホテルも渋谷の1.5倍から2倍ぐらいある。だけど、海外の人達が来て銀座とか六本木とか渋谷で遊んで、新宿に戻っても遊ぶ場所がないのが現状です。
あと、地方からの若い人達を見ると、いきなり渋谷区とか港区には住めないので、新宿区とかそれこそもうちょっと上に住んでる人達も多いのに、この辺りに遊ぶ場所がない。音楽に対して敏感な人達が育つ場所が今新宿にないので、それを作っていくことが今後のシーンにとっても必要かなと思ったんです。
確かに新宿は昔に比べてクラブ遊びのイメージが少ないです。
新宿にお店を出したくて6年ぐらい前から物件を見たりしてたんですけど、そう言ってる間にオリンピックが決まって、渋谷をもうちょっと整えとかなきゃいけないなと思ったので、ここ数年、渋谷に重点的に力を入れていました。遠くに店を作ると見切れないので、渋谷中心に作ってはきたんですけど、渋谷も一通りできたし、オリンピックまで少し時間もあるし、新宿もこのままほっとくのもどうかなと思って。

新宿にはどういうイメージを持っていますか?
新宿はディスコがあった全盛時代は、渋谷や六本木以上に大きい箱がいっぱいあったんで潜在能力はあると思います。でも、悪いイメージも先行していますね。実際に昔、歌舞伎町でお店出してひどい目に遭った人達の話を聞いたりすると、わざわざそんなとこでお店出す必要もないかなとも思いました。
でも、外国人も多いし若い人達も多いし、全然活かせられるんじゃないのかなと。まあここは新宿二丁目の端っこで、LGBTやおしゃれな人達が多いけど、遊ぶ場所がなかったり、海外から来てる人達も気軽にホテルの近くで行けるような場所がこの辺にあってもいいのかなと。
新宿の街は今後どうなって行くと思いますか?
たぶん行政側も新宿はこれから手を入れて、どんどん変わっていくと思う。古い建物も新しくなっていくだろうし。将来は新宿と渋谷が夜間バスとかで繋がって、両方がリンクするようになってくれればいいかなと思っていて。
大造さんは、クラブシーン歴30年以上ですか?
そう、34年かな。
34年ですか。現在2020年のクラブシーンはどうなっていて、例えば10年前との違いはどう感じていますか?
まあ基本的なところは変わってないかな。人がこういうところに求める部分っていうのは根本的なところはそんなに変わってはないと思います。ただその情報の取り方はすごく変わってきているので、それこそ紙だったのがWebに変わってきてるし、昔だったら行かないと聴けなかったのが行かなくてもYouTubeとかで聴けて観れたり。
あとは若い人達はあまり無駄をしなくなった。我々の時代は無駄を原動力に動いてた部分があるので、特にバブルの時代なんて無駄から何か学んで失敗して学ぶじゃない。今の人達は失敗しようとしない。いろいろ調べて無駄な時間やお金を使おうとしない。だって車なんて無駄じゃん。洋服だって余計なものは無駄だし、とにかく無駄をしなくなった。
レコードなんかも無駄に入るのかもしれません。
もうレコード聴くときなんて針を落とした瞬間からプチプチって音がなって、曲が出てくるまでドキドキしながら聴いてたああいう感覚って、今はないんでしょうね。スマホでピッてやりながら音楽流して、やっぱりそういうところは説得力がないなってのはありますね。便利=質がいいとは限らないので。

イコールではないですよね。
調理だと炭があってガスがあって電気があるけど、じゃあ一番便利なのは電気だけど、ほんとに電気で焼いて旨いのかよみたいな。
大造さんがやられることは電気ではないですよね。でも炭でもないですし。
それをうまく使いこなすってことが大事だと思う。電気もいいし炭もいいんだけど、それらを全てうまく使いこなすことが重要。
DJ Bar Heartの話に戻りますけど、火曜日はヒップホップ、水曜日がミックス、木曜日はディスコっぽい感じですね。週末はどのような感じですか?
金曜日は少し4つ打ちだけどテクノに被ってくるアーティスト。土曜日はテクノまで行かないハウス寄りな感じです。完全テクノっていうのは、たまに第5週だったり休日の日だったりするようなときに入れたりする感じですね。

壁にかけてるアートですが、これはどなたの絵なんですか?
KEIKO M MIYAMAという方のアートで、彼女は山本寛斎さんのコレクションのテキスタイルデザイナーをやっていて、そこから、舞台衣装や壁画など様々な図案を描いている人。このアートを飾っている場所(店舗奥のソファー席)と、階段の壁は全部ピクチャーレールが常設で付けていて、ギャラリーとしてのコンセプトを持たせて、定期的に替えていこうと思ってます。
入場料1,000円ワンドリンクは安いですよね。
渋谷Bridgeと一緒で、1,000円ワンドリンク。あと、近くのデパートで働いてる子達用に、1,000円2ドリンクの「デパガ割」(各デーパート通行証持参の女性)もあるので、デパートで働いている女性の方にも是非来て欲しいですね。

先程も聞きましたけど、音響で使っているレイオーディオについて、もうちょっと詳しく教えて下さい。
レイオーディオは元々パイオニアにいたエンジニアの木下正三さんって方がスピーカーの開発をしていて、TAD (Technical Audio Devices)という高級オーディオラインの基礎を作った人。今でも世界中のトップクラスのスタジオではこのレイオーディオが入っていて、本当にトップクラス。分かりやすいところで言うとNHKのメインスタジオはこのレイオーディオが入っています。未だにレイはやっぱり不動の1位なんで。YELLOWのときからずっとレイオーディオを導入しています。
他に新店の計画とかありますか? Heartの次に新宿の2店舗目が出来たら良いですね。
新店は今年はないかな。もうオリンピックに結構照準合わせてきたんで、あとここも作ったばかりだし。今年はどっちかって言うとリサーチ、準備段階な感じ。3年とか5年ぐらいちょっと根を張って。うちの会社のお店で、新宿最初の1店舗目ですからね。1個作ってまずこの周辺の人達に愛されるようなお店ができて、それができた中で次のことを考えたいと思います。


DJ BAR Heart
東京都新宿区新宿2丁目19-9 角ビル B1F
Information : 03-6384-1053
https://heart-tokyo.com
by Masashi Funatsu
photos by Michael Nambu