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話題のバンド、ハイエイタス・カイヨーテがセカンド・アルバムやライブ公演について明かす
セカンド・アルバム『Choose Your Weapon』が日本でもリリースされたハイエイタス・カイヨーテ。ネイ・パーム(ヴォーカル、ギター)、サイモン・マーヴィン(キーボード)、ポール・ベンダー(ベース)、ペリン・モス(ドラムス)の4人によるこのバンドは、実に多くの音楽的要素を融合させつつ、どのジャンルにもとらわれない自由さを持つ。先日、彼らの初来日公演が実現し、9月26日にブルーノート東京に出演、翌27日には日本初開催となるBlue Note JAZZ FESTIVALでオープニング・アクトを務めた。かたや日本有数のジャズ・クラブでの単独ステージ、かたやロバート・グラスパー、パット・メセニー、ジェフ・ベックらも出演するビッグ・フェスでの野外ステージと、異なるシチュエーションでのライブだったが、生のステージであるからこそ、彼らのパワフルかつ奇想天外な音楽性はその魅力を倍増させていた。ブルーノート東京での公演が始まる前、バックステージで彼らにインタビューを行った。
――改めて、ハイエイタス・カイヨーテにとって『Choose Your Weapon』はどういうアルバムになりましたか?
ポール・ベンダー: ファースト・アルバムの反響も凄かったから、新作がどう受け取られるのか不安だったけど、驚くほど反応がいいね。期待に応えられるビッグなアルバムを出すことができてよかったし、とても思い入れのある作品になったよ。メンバーはみんな、制作作業に夢中になってのめり込んだけど、完成させるのが難しいアルバムでもあった。そもそも100%完全なものなんて作れないんだ。どんな作品だって、後になって「もっとああできた」と思うものだ。細かい部分をあれこれ考えて眠れない夜もあったけど、最終的には満足できるものになった。作品いっぱいに自分たちの音楽やアイデアを詰め込んだから達成感があるね。

――『Tawk Tomahawk』(2013年)でのデビュー時は、ヒットした「Nakamarra」の曲調からネオソウルやヒップホップのイメージで語られることもありました。それに対し『Choose Your Weapon』では、バンド本来のより広範でジャンルレスな音楽性が露わとなり、それによってファン層も拡大したのではないですか?
サイモン・マーヴィン: 確かに僕たちの客層は幅広い。でも、『Tawk Tomahawk』の時から様々な人が客席にいたんだ。ライブをやると、真ん中あたりではメタル・ヘッズが盛り上がっていて、ふと見ると12歳ぐらいの子供もいて、かと思ったら50歳ぐらいの男性もいたりする。アメリカとかヨーロッパでも最初からそういった幅広さはあったんだ。新作はファーストのほぼ倍の長さで、色々なサウンドが詰まっているから、より幅広い層に受け入れられることができたと思う。でも、僕らが音楽を作る時は、そもそもジャンルなんて意識していないんだ。例えばアフリカンな音楽を作ろうと決めて作り始めるわけじゃなくて、「こうやったら面白いんじゃないか」と色々と試していくうちに自然とそういった方向性になっていく。
ペリン・モス: 『Choose Your Weapon』は、よりハイエイタス・カイヨーテらしいアルバムだよ。僕たちそれぞれが影響を受けてきた音楽の要素が現れていると思う。例えば僕とネイ(・パーム)はアフリカ音楽の影響が強いけど、他のふたりも僕らに感化されてそういう音楽に興味をもつようになった。そんな様々な要素をソウルとかヒップホップとかと混ぜ合わせた感じだね。今回は以前よりも色々な音楽的実験をする余裕があったんだ。
ネイ・パーム: それと、一緒に活動をすることで培ってきたものとか、私たちの自然な成長が現れているとも思う。ファーストの頃はまだお互いのことをよく知らなかったし、私にとっては他のミュージシャンと制作するということ自体、新しい挑戦だった。ファーストをリリースしてから世界をツアーでまわって、メンバーのことをもっと知って、そのおかげでそれぞれの才能を引き立たせるコツを掴んだり、曲を書く時にそれぞれの特徴を意識して書けるようになった。友だちとして、アーティストとして、私たちは一緒に成長してきたのよ。結果として『Choose Your Weapon』は、前作よりも長く、内容もさらに濃密なものになった。
圧巻のパフォーマンスが注目を集める、ハイエイタス・カイヨーテ
――今夏はグラストンベリー、モントルー、ノース・シーなどビッグ・フェスのステージを踏みましたね。
ポール: フェスでやるのも楽しいよ。伝説的なアーティストがたくさん出演してきたフェスのステージに立って、その歴史の一部になれたことは光栄だね。面白いのは、僕たちの音楽は多彩だから、呼ばれるイベントも多種多様なんだ。モントルーやノース・シーといったジャズ・フェスと、グラストンベリーのようなメインストリームのフェスは全然雰囲気が違うけど、一番楽しいのは自分たちがヘッドライナーを務めるショーだね。観客が曲を知ってくれているし、口ずさんでくれる。観客とエネルギーをシェアするのは、ライブにおいて凄く重要なことだと思う。オーディエンスが僕たちにエネルギーを返してくれると僕らの演奏もよくなるし、ライブ全体が盛り上がる。ジャズ・フェスも楽しいけど、オーディエンスが静かだったりしてちょっと違和感がある時もあるよ(笑)。

――フェスでは色々なアーティストと共演や交流をする機会が多いと思いますが、最近で刺激や影響を受けたミュージシャンはいますか?
ネイ: グラストンベリーではフライング・ロータスやFKAツイッグスと同じ日だったけど、ツアーであちこちをまわっているうちにこういったアーティストと親しくなるから、大きなフェスで再会できると嬉しいわ。最近のツアーではテイラー・マクファーリンと会ったけど、彼が同じ国に来ていることを知らなかった。前に一緒に曲をやったことがあったから、彼のライブに私が飛び入り参加したりして、とても楽しかったわ。でも、私たちが一番影響を受けるのはビッグネームのアーティストではなくて、例えばあまり有名じゃないエチオピアのバンドとか、一生を音楽に捧げ続けてきたようなミュージシャンとかなの。オランダのヴォルホフ・フェスに出た時に観たけど、凄くいいエチオピアのバンドがいた。名前は憶えていないけど、本当に素晴らしかったわ。
――ツアーの合間などで気に入ってよく聴いている音楽を教えてください。
ポール: 最近はライトニング・ボルトというアメリカの2ピース・バンドにハマっているよ。もう15年ぐらいのキャリアがあるバンドだけど、ベースとドラムだけでヘビーな音楽をやっていて、自分たちの音楽をアート・メタルと呼んでいるんだ。
ペリン: セネガルのユッスー・ンドゥール。彼の音楽は素晴らしいね。同じ西アフリカのマリ共和国で、トゥアレグ族に伝わるタカンバという音楽も好きだ。アガリ・アグ・アムーミンというアーティストは、6/8拍子の一定のリズムをキープしつつ、アンプに通した2弦ギターをディストーションさせて、どんどん音を展開させていく。歪んだ音を出すところがラフで尖っていて、とても格好いい音楽なんだ。
ネイ: ブルガリアン・ヴォイス(ブルガリア国立女声合唱団)をよく聴いているわ。アニメ映画『Ghost in the Shell(攻殻機動隊)』のオープニング曲はこの合唱団がベースになっていると知って探したの。『Le Mystère des Voix Bulgares』というアルバムがあるけど、この人たちのハーモニーは知性と感情の両方が組み合わさっていて、とても豊潤なの。どうすればこれほど深い感情を喚起させるハーモニーを生み出すことができて、緊張や心情を表現できるのかを分析して、理解しようと努めているわ。とても刺激を受けている。
サイモン: 僕はジャズが多いかな。昔から好きなのはレニー・トリスターノ。彼の作品は素晴らしいし、よく分析するんだ。最近はピート・ロックとか聴き返して、ちょっとヒップホップのルーツを遡ることもあるし、あとはパキスタンのメディ・ハッサンがいいね。とても美しい音楽だと思う。
――『Tawk Tomahawk』の頃と『Choose Your Weapon』のリリース後では、ライブ・ステージに変化はありますか?
ネイ: 単純に演奏する腕が上がっていると思うわ(笑)。以前はライブで先にやっていた曲を後で録音することが多かったけど、『Choose Your Weapon』では例えば「Laputa」とか、スタジオで制作して完成した曲をライブ用にアレンジすることが多くなった。そういう時はただ曲を再現するんじゃなくて、いかにライブらしいエネルギーに満ちたものにするか考えている。
ハイエイタス・カイヨーテがジャズの巨匠の作品を再構築
――詳細はまだ入ってきていませんが、今後、ロバート・グラスパーが監修するマイルス・デイヴィスのリミックス・アルバムに参加するそうですね?
ポール: 色々なアーティストが参加して、それぞれがマイルスの曲をリミックスやカバーするプロジェクトになるらしい。僕らがやったのは「Little Church」で、もう完成しているんだ。最初はただリミックスするつもりだったけど、結局自分たちの演奏もどんどん加えていって、最終的にはリミックスとカバーの中間みたいなものになったね。
ネイ: 私の叔母はインドの伝統舞踊のダンサーで、彼女の義父にあたる人が73歳の南インド人なの。私たちが制作をしていた時、その彼がたまたま訪れていたから、「Little Church」でインドの笛を演奏してもらったのよ。素晴らしかったわ。「Little Church」はエルメート・パスコアルがマイルスのために作った曲だけど、そういったコラボレーション・スピリットを愛したマイルスへのトリビュートとしていいものになったと思う。私たちなりの解釈でコンテポラリーな要素も入れたのよ。
サイモン: マイルスの実際の演奏部分も入れているけど、あたかも一緒に演奏をしているような感じになったんだ。最高の気分だったね。
Words by Mitsuru Ogawa / Photos courtesy of Blue Note Tokyo