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Stones Throwを代表するJロックが、SalsoulとWest Endの魅力を凝縮したミックスCDを発表した
90年代においてはビート・ジャンキーズの一員として数々のバトルを制覇しながらも、その後、JディラやマッドリブのDJを務め、Stones Throwを代表するDJになったJロック。ヒップホップを始め、ファンク、ディスコ、ブラジリアン、エレクトロニックなどあらゆるジャンルの音楽を2枚使いしてシームレスにプレイすることで、LAのみならず、世界中で最も愛されているDJのひとりだ。ファンキー・プレジデントの異名を持つ彼が、今回、ディスコ界の二大レーベルであるSalsoulとWest Endをノンストップ・ミックスするという前代未聞のミックスCDをリリース。Jロックにディスコへの愛などについて語ってもらった。
――今回のミックスCD『Salsoul vs West End – No Stoppin –』をリリースした経緯を教えてください。
頻繁に日本にツアーしに行っているけど、タワーレコードに行くと、MUROのSalsoulミックスとか、MITSU THE BEATS、ジャイルス・ピーターソンのミックスCDとかをよく見かけていた。それで、Stones Throwのスタッフのコウタ(吉岡宏太氏)に「俺も日本でミックスCDをリリースしたい!」と言ったんだ。それから、ウルトラ・ヴァイヴの人が俺のイベントに遊びにきてくれた。日本ではレアな音源がいろいろ再発されているし、誰もやったことがないミックスCDを作りたかったんだ。SalsoulとWest EndのCDが全部、日本でウルトラ・ヴァイヴから再発されていることを知って、ふたつのレーベルの音源をミックスしたCDはなかったから、やろうと提案した。レーベルから声をかけてもらったわけじゃなくて、自分から「やりたい!」と働きかけたんだ(笑)。MUROもSalsoulのミックスCDをいくつか出しているけど、他のDJとは被らない選曲にしたよ。
――SalsoulとWest Endのどういう点が好きですか?
昔から大好きだね。レコードを掘りに行くと、必ずこのふたつのレーベルのレコードを買って帰るんだ(笑)。両方のレーベルがリリースしていたディスコも好きだし、80年代からリリースし始めたR&Bやブギーも好きだ。みんな、Salsoulをディスコ・レーベルだと思っているけど、80年代からR&Bをリリースしていたり、スティーヴ・アーリントンのようなアーティストの作品もリリースしていた。Salsoulのことは、子供の頃にオーラ(Aurra)の「Are You Single」を聴いて初めて知ったから、俺は最初はR&Bレーベルだと思っていたんだ。
DJを始めてから、Salsoulのディスコ作品について知るようになった。Salsoulのラテンのレコードを見つけたときは「こういうのも出しているのか」って驚いたけど、実はラテン・レーベルとしてスタートしたことがわかって、もっと驚いたね。West Endのことは、80年代に「Heartbeat」を聴いて知った。当時は大ヒットしていたし、みんな2枚使いしていたよ。West Endのディスコを好きになって、R&Bも好きになった。ターナ・ガードナーはWest Endで一番有名なアーティストだけど、他にもいろいろなタイプのアーティストをリリースしている。デ・ラ・ソウルが「Buddy」で「Heartbeat」をサンプリングしていることを知ってから、アメリカや日本やロンドンのレコード店でWest Endを熱心に掘るようになった。West Endのレコードを買えば、9割以上の確率で当たりだ。SalsoulとWest Endはこれからも色あせないレーベルだよ。Blue Noteと似たような存在だね。
類まれなDJ、Jロックが選ぶフェイバリット・レコード
――特にお気に入りのレコードは?
「Heartbeat」とかルーズ・ジョインツの「Is It All Over My Face」とかは大好きだし、オーラのリリースはなんでも好きだね。Salsoulのジョー・バターン、ファースト・チョイスも好きだよ。「Heartbeat」をプロデュースしたケントン・ニックスは、いろいろな名義でリリースしているんだ。最近彼の別名義の作品を発掘しているけど、両方のレーベルでひとりのアーティストがいろいろな名義を使ってリリースしていることもあるんだ(笑)。だから、たった1枚の作品しかリリースしていないグループもいる。ディスコには顔がないんだ。
レコード・ジャケットにはセクシーな女の子とか、筋肉ムキムキの男が載っているけど、アーティストの写真が使われることはほとんどなかった。その理由のひとつは、プロデューサーがいろいろな名義でリリースしていたからだ。マッドリブがイエスタデイズ・ニュー・クインテットとかカジモトとか、いろいろな名義でリリースしているのと同じような感じだね。Salsoulの初期のサウンドは、Philadelphia Internationalと似ているけど、それはPhiladelphiaのオージェイズとかMFSBで演奏しているミュージシャンがみんなSalsoulに移籍したからだ。ディスコの4つ打ちのリズムはPhiladelphia Internationalからスタートして、みんながそのサウンドを真似し始めた。サルソウル・オーケストラは、実はPhiladelphiaのMFSBと同じメンバーなんだ。

ブギーやディスコついてJロックが思うこと
――最近、ブギーとディスコは流行っていますが、あなたはいつからこのふたつのジャンルをDJプレイに反映させてきましたか?
ブギーやR&Bを子供の頃から聴いていたんだ。キャメオ、パーラメント、ザップを聴いて育った。デイム・ファンクのような人が、こういうジャンルを復活させてくれたお陰で、俺もDJプレイの中に入れやすくなったね。90年代はビート・ジャンキーズとして活動することが多くて、ヒップホップ・クルーとして知られていた。でもあの頃も、俺はメアリーJブライジ、ジョデシィのようなR&Bも好きだった。昔からあらゆるジャンルが好きだし、DJというのは、どんなジャンルでもプレイできないといけない。ハウス・パーティーでDJすることも多かったから、「Ring My Bell」とかシェリル・リンの「Got to Be Real」は定番でプレイしないといけなかった。
ディスコやR&Bは昔から好きだけど、最近はDJセットの中でプレイしても変な目で見られなくなったから嬉しいね(笑)。ディスコ、R&B、ブギーは昔から好きだし、これからも消えない。ディスコのブレイクビーツがとにかくカッコいいんだ。Bボーイ・ブレイクも入っているし、4つ打ちのダンス向けのブレイクもたくさん入っている。今回のミックスCDのために、「Super Queen」という曲のエディットを作ったけど、ダサいと思える箇所は全部取り除いて、ブレイクの部分だけ残した(笑)。ディスコは昔から大好きだから、こういうCDが作れて嬉しいね。アメリカではこういうミックスCDはリリースできないから、発売できて光栄だ。
――選曲で意識したことは?
他のミックスCDやコンピとは、あまり内容が被らないようにしたかった。だからと言って、全部をレア曲にしたわけではないんだ。例えば「Super Queen」はこっちのレコード店で1.99ドルで売っているよ(笑)。正直「Super Queen」はダサい曲だけど、ブレイクがすごくカッコいいから、その部分だけを残して、そのエディット・バージョンをミックスに使った。出来には満足しているし、エディットを作らせてくれて嬉しいね。エディットが収録された7インチもリリースしてくれたんだ。今回は、2枚使いのトリックも少し入れたし、ゴーストフェイス・キラーの曲でサンプリングされたエディー・ホルマンの「It’s Over」も入れたよ。ずっと同じBPMじゃなくて、ゆったりした曲や速い曲を入れて、全体の流れを大切にした。
エディット職人でもあるJロック
――今作ではあなたのエディットも楽しめますが、なぜフローント・エドワーズ名義なのでしょうか?
ディスコ・エディットは頻繁に作っているけど、Jロック名義でエディットを発表しても、みんな聴いてくれないんだ。Jロックという名前を聞くと、みんなヒップホップというイメージを持ってしまう。誰もフローント・エドワーズのことは知らないから、新人として捉えてくれるし、先入観もなく、より興味を持ってくれる。ケニー・ドープのDJイベントに遊びに行ったとき、彼はトッド・テリーを紹介してくれたんだ。
最初、トッド・テリーは俺に適当に挨拶していたけど、ケニーが「こいつがフローント・エドワーズなんだよ」と言ったら、トッドの顔つきが一気に変わって、「君が彼なのか!」と大きな声で言ってきた(笑)。ケニー・ドープがフローント・エドワーズ名義のエディットをプレイしてくれたときは驚いたね。この名義は、ディスコ・エディット用に作った名前で、実はヒップホップ・エディット用の名義もあって、マイルス・コルトレーンっていうんだ(笑)。マイルス・コルトレーン名義でエディットを作るときは、曲のマルチ・トラック音源を使っているんだ。法的な問題にならないように、マイルス・コルトレーン名義を使っている。
――日本のファンにメッセージをお願いします。
長年サポートしてくれてありがとう! 日本のシーンも変化したけど、今でも日本に招いてくれて、お客さんが来てくれるのは嬉しいね。日本のレコード店もだいぶなくなったし、ファッションのトレンドも変化してきたけど、そんな中でもDJさせてもらえることに感謝している。いつでもブラック・シープやトライブ・コールド・クエストをプレイするわけじゃなくて、俺もDJとして常に変化していくつもりだよ(笑)
Words by Hashim Bharoocha / Photos courtesy of J.Rocc