KANDYTOWNとATLANTICという絶妙な組み合わせ
1947年にニューヨークにて誕生し、今年で設立70周年という歴史を持つ、アメリカでも屈指の名門レコードレーベルであるATLANTIC RECORDS(以下、ATLANTIC)。現在はWARNER MUSICグループ傘下にある同レーベルであるが、今もなおヒップホップ、R&B、ロックなど様々なジャンルの一流アーティストを抱え、ヒット曲を放ち続けている。そんなATLANTICの膨大なカタログの中から、黄金期とも言える50年代から70年代にかけてのソウル、リズム&ブルースのクラシックチューンから厳選し、KANDYTOWNのDJであるMASATOとMinnesotahが24曲入りのミックスCD『KANDYTOWN LIFE presents “Land of 1000 Classics” mixed by MASATO & Minnesotah』を完成させた。今の東京のヒッピホップシーンの一角を担う存在であるKANDYTOWNの豊かな音楽性を理解している人であれば、KANDYTOWNとATLANTICという絶妙な組み合わせに思わずニヤリとしてしまうだろう。今回はこのATLANTIC設立70周年を記念するミックスCDを手がけた当の本人であるMASATOとMinnesotahの二人にDJという視点からのATLANTICに対する思いから、今回のミックスの内容に関してなど、様々な話を聞いた。
まず最初に今回の企画を引き受ける以前から、ATLANTICというレーベルに対してどのような印象を持っていたか教えてください。
MASATO:自分にとってはソウルのレコードを買い始めてから、早い段階で知ったレーベルですね。レコードのセンターが赤と緑半々のデザインというの非常に覚えやすかったです。
Minnesotah:リズム&ブルースやサザンソウル、ディープソウルの他にもLed ZeppelinやKing Crimsonなど、60年代からジャンルや人種関係なく幅広い作品を産み出してきた、音楽史を語る際には外せないレーベルという印象です。
ちなみに今回のミックスに使われていない80年代以降も含めて、ATLANTICのアーティストといえば誰が思い浮かびますか?
MASATO:まずChicは速攻で浮かびますね。あとYoung-Holt UnlimitedやAverage White Bandは今回のミックスにも入れたかったくらいのお気に入りアーティストです。
Minnesotah:Bruno MarsやWhiz Khalifa、Gucci ManeなんかもATLANTICと聞いて驚きましたが、やっぱり70年代のソウルアーティストが浮かびます。80年代で言うとSteve Arringtonがすごく好きですね。

膨大なATLANTICのカタログの中から、今回のミックスに使用した24曲を選んだ際の基準やテーマなどがあれば教えてください。
Minnesotah:まずは前提として60年代から80年代のソウル、R&Bから選びました。その上でヒップホップやレアグルーヴ、サンプリングのようなクラブ、DJ的な目線からというよりは、もっと単純にリスニングとして素晴らしい音楽を入れたいと思いましたね。60年代のサザンソウルなんかはDJ的にチョイスされることは少ないけど、ATLANTICのソウルということであれば入れない理由は無いですからね。
MASATO:ATLANTICが70周年ということもあって、50年代、60年代から歴史を追って70年代に行くような流れは意識しました。あとはタイトルもマニアックなものでは無く、初めての人にも手に取りやすいものを選びました。
ちなみにお二人で具体的にどのようなやり取りをしながら、曲を選んでいったのでしょうか?
MASATO:初めにミックスに入れたい曲をお互い20曲ずつぐらい出し合ってから、そのリストを元にミネさん(Minnesotah)の家で酒を飲みながら、レコード聴いたり、Youtubeを流しながら選曲しました。
Minnesotah:そうですね。二人で酒飲みながら、レコードを聴かせあってチョイスして。そこからミックスの流れを考えながら選びました。ターンテーブルでDJしながら「今の流れいいね!」みたいな。
今回のミックスの中でキーになる部分があれば教えてください。
MASATO:一つは2、3曲目(「In The Midnight Hour」、「Something You Got」)のPickett先生繋ぎは聴きどころです。Wilson Pickettを聴けば古き良き60年代のATLANTICのサウンドが伝わると思います。
Minnesotah:前半の60年代ソウルの流れはソウルミュージックの真髄という気がします。
MASATO:もう一つはAretha Franklin「Day Dreaming」のところですね。ミックスの展開が変わるところなので、間違いない決め曲だと思います。

今回のミックスの1曲目、Ray Charles「I Got a Woman」はKayne West「Gold Digger」のサンプリングソースとしての印象が強いですが、他にATLANTICの曲がサンプルされた曲で好きなものはありますか?
MASATO:Nasの「Just A Moment feat. Quan」(注:Chic「Will You Cry (When You Hear This Song)」をサンプリング)で、これは中学生ぐらいに聞いてた懐かしい曲ですね。2000年代初期はソウルの早回しとか流行った時代で、この時期にあったフックはシンガーが歌うっているラップの曲がだいたい間違いないです。
Minnesotah:自分はSnoop Dogg「One Chance」(注:Prince Phillip Mitchell「Make It Good」をサンプリング)とDrake「Fancy feat. Swizz Beatz and T.I.」(注:Ace Spectrum「I Don’t Want To Play Around」をサンプリング)ですね。
ちなみにこれまでKANDYTOWNの曲などでもATLANTIC RECORDSの曲をサンプリングソースとして使用されたことはありますか?
Minnesotah:その昔、たしかATCOやCOTILIONみたいなATLANTICのサブレーベルの曲をサンプリングしていた気がしますね。
KANDYTOWNの曲とATLANTICの曲には共通したグルーヴ感や独特のソウルフルな匂いを感じます。お二人が考える両者の共通点は何だと思いますか?
Minnesotah:両方とも好きなものは好きというか。自分の感性に従って音楽をリリースしている気がします。
MASATO:ATLANTICは常に時代の変化にも対応しながら良い音楽を探し、輩出していったからこそ、今まで70年間も続いてきた歴史があるんだと思います。その軸にはジャズやサザンソウルの良いグルーヴがあって、その流れは今でもBruno Marsなどが引き継いでいる。KANDYTOWNも過去の良い音楽を消化して、今の時代の中で表現しているから、自然と良い音楽を生み出しているんだと思います。
ATLANTIC以外で今回の企画と同様に選曲/ミックスを手がけてみたいレーベルがあれば教えてください。
MASATO:他のレーベルだとMOTOWNとか、PHILADELPHIA INTERNATIONALとかも好きなんで、色々やってみたいですね。
Minnesotah:あと、20TH CENTURYなんかもやってみたら楽しそうだなと思います。
最後にATLANTICの作品の中から、オールタイムで最も好きなアルバムを一枚挙げてください。
MASATO:一枚を選ぶのは悩みますね、、、。1978年にリリースされているRoberta Flack『Roberta Flack』というアルバムが一番好きです。全体的にメロウで、特にStylisticsの「You Are Everything」のカバーはアレンジが効いてて、グッときます。アルバムを通して色んな曲が楽しめますのでオススメです。
Minnesotah:Aretha Franklin『Young, Gifted and Black』ですね。今回のミックスにも収録した「Rock Steady」と「Daydreaming」の二曲が収録されています。