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ネオソウルに傾倒した新作『The Truth』をリリースしたNao Yoshiokaに心境を伺った。
アーティストの作品を聴いて楽しむことと、ライブでアーティストの魅力を肌で感じること以外のファンにとっての楽しみと言えば、アーティストの成長、進化を見届けることではないだろうか?SWEET SOUL RECORDSからのデビュー作『The Light』(2013)と、メジャーデビュー作『Rising』(2015)では、本場アメリカのソウル・リスナーをも唸らせる圧巻の歌声でレトロ・ソウルの美を探求していたシンガーNao Yoshiokaだが、9月21日にリリースされたばかりの彼女の3rdアルバム『The Truth』ではガラっと着眼点を変え、現代のR&Bやネオソウル・ムーヴメントの文脈を汲んだ音楽的領域に進出している。
新作で起用されたプロデューサー/ソングライター陣は、エリカ・バドゥ、ジル・スコットなどに楽曲提供経験のあるカーリ・マティーンや、アリシア・キーズやニッキー・ミナージュなどへ楽曲提供をしてきたミュージックマン・タイといった最前線で活躍している俊英たちであり、そういった刺激的なコラボレーションがNao Yoshiokaの新たな一面を引き出している。ジャケットのアートワークもこれまでの穏やかな配色とは対極的な鮮烈なピンクとエッジの効いたデザインが印象的であり、彼女の音楽活動における新たなフェーズの幕開けを象徴している同作に相応しい。
去年は北米版『The Light』をリリースし全米デビューまで果たし、世界を舞台に躍進を続けているNao Yoshiokaだが、慣性に身を任せるのではなく新境地に足を踏み入れることに決意したのはなぜなのか?思いの丈を明かしてもらった。
コンテンポラリーでネオソウルな新作『The Truth』
―― 新作『The Truth』はこれまでのアルバムと比較するとよりコンテンポラリーでネオソウルなアプローチです。前作『Rising』からどういった心境、環境、視点の変化があったか教えていただけますか?
『The Light』と『Rising』の2作品は、私の音楽のルーツとともに、自分を“愛せるようになりたい”ということや、“夢を信じること”を自問自答し、葛藤しながらも成長する姿を生々しく見せた作品になっています。音楽性も私のルーツのゴスペル、ブルース、クラシックソウルが主体となったいわば自己紹介のようなアルバムでした。
そんな自己紹介のアルバムのリリース、そして夢の一つでもあった全米デビューも果たしてからニューヨークのBBKingというベニューで行ったリリースパーティーで、私にとって自分の意識を変えられる体験をしました。その場にいたいろんな国籍の人が、私が歌っている時に感極まって泣いたり、歓声をくれたり、人種や国籍の壁を超えて音楽で一つになっている状況を目の当たりにしたんです。
「国籍、人種などいろんな隔たりがあると思っていたけど、私たちは本当は深い部分で繋がっているんだ。この価値観を持った新しい人がここから新しい時代を作っていくんだ!」と強く感じました。人種などの違いについてはネガティブな問題がニュースで流れることが多いですが、私は世界を旅してポジティブな真実を目の当たりにしてきました。それをコンセプトに、“音楽は壁を超えて私たちの心を繋いでくれる”というメッセージが出来上がりました。
そして、その思いをプロデューサーの山内さんに話をしたのですが、その話は山内さんのブログで是非見てほしいと思います。

―― 新作の方向性は「Make the Change」の世界観をさらに拡大させたような内容です。「Make the Change」はNao Yoshiokaさんの代表曲のひとつであり、アメリカのラジオでは今でもかかっているとのことですが、この曲への思い入れを教えてください。なぜこの曲はこれほどまでに多くの人の心をとらえたのだと思いますか?
この曲は私の人生を変えてくれた曲なんです。それからずっと歩みを共にするSWEET SOUL RECORDSにとっても初のオリジナル曲で、ここから私たちの全ては始まっています。「変化を待つのではなく自ら起こしていこう!」というシンプルなメッセージは、その当時私もレーベルも同じように感じていたことで、あの時あの瞬間に出会って、この曲が出来たことも必然だったんだと思います。私が人生で初めて歌ったネオソウルでもある、この「Make the Change」という曲に出会ってなかったら私の歩みは変わっていたはずです。
この曲が多くの人の心を捉えている理由は、そんな心の奥底にあった強い気持ちを込めたメッセージソングであることが一つ、そしてもう一つは曲のメッセージ性と音のシンクロがとても高いことだと私は思っています。
今でも「Make the Change」を歌うたびに、私自身も曲のメッセージに共感するし、いろんな国の方から、この曲に支えられたと言っていただきました。どこの国に行ってこの曲を聴いてもらっても、曲の中盤であるリズムチェンジで「おお!最高じゃないか!」って反応をしてもらえて、やっぱり想いのつまった運命の曲は国境を越えて伝わるんだと思います。
過去作『The Light』 『Rising』よりもセクシーでクールに
―― 『The Truth』でのNaoさんの歌い方はこれまでの作品以上にセクシーでクールだと感じました。今作の歌唱においてはどういったことを意識しましたか?
プロデューサーの山内さんから今回の制作を始める時にすごく意識するよう言われたのは、「歌いすぎない」という事でした。これまで私は「これで伝わるんだろうか、もっと伝えなきゃ」って怖くなると、隙間を埋めてもっと強く歌おうとしてしまっていました。でも本当は曲を届けるためには、その曲の芯にあるピュアな部分をしっかりと表現する必要がある。そのためには不要な部分を削って引き算をしていく事で音楽が生きてくる、そんな事を意識することにしました。
なので、歌いすぎるのではなく、ピュアな声の良さや、裏声、低い声、また囁くような声など、声が本来持ついろんな表情をもっと使って曲を色付けていこうと決めて歌いました。結果として、今までお見せした事のない表情をアルバム全体に詰め込むことができたと思います!
―― 歌詞はNaoさん自身が書いた曲が大半を占めるのでしょうか?歌詞のメッセージ性やワードチョイスなど、ご自身でこれまでの作品と違うと感じることはありますか?
今回は、「I Love When」や「Borderless」など共作したものもあれば、コンセプトやイメージ、キーワードを伝えて書いていただいたものもありました。前作の『Rising』では私自身でもかなり歌詞を書いたんですが、ストレートでわかりやすく表現していた部分が多かったんです。自己紹介のような作品だった『Rising』では、ストレートに歌詞を表現することで生々しく感情を表現することができました。
でも今回は次のステージへの挑戦ということで、私の中にあるものを書き連ねるのではなく、信頼する大好きなアーティストたちの中にある世界を分けてもらう形をとりました。大ファンだったアーティストたちと話しながら歌詞のコンセプトを共有して、出来上がった歌詞の世界はとてもポエティックで美しく、心に触れてくるような繊細な表現がこれまでになく多くなっています。私もそれぞれの歌詞ができた瞬間からその世界に魅了されています。
―― 表題曲「The Truth」は軽快なクラップが気持ち良いナンバーです。カーリ・マティーンとの共作はいかがでしたか?
彼のプロデューサー、ソングライターとしての素晴らしい才能に驚かされるばかりで、もっとも感動の多い制作でした。もともと友人だったカーリとは、今年の3月にロサンゼルスに行った時に再会したんですが、そこでお互いが音楽に対して考えていることや感じていることが完璧に一致していることがわかって。「これだけ同じことを感じているんだから、一緒に曲を作ろうよ!」と山内さんと三人で意気投合して、結果としてその時に話した事が楽曲にも大きな影響を与えています。
カーリは「音楽にはエンターテイメントの音楽と、芸術の音楽の2種類があって、どちらもいいけど僕は芸術の音楽を作って生きていきたい」と話してくれたんですが、私たちも全く同じ気持ちでずっと音楽をやってきました。そんな共鳴した思いを込めて出来上がった楽曲の中には“Sound Of Art” (= 音の芸術)という言葉や、“Never lose what you know to be true” (= 本当の自分の気持ちを失わないで)といった歌詞が入っています。この曲を歌うたびに嘘をつかずに自分の真の気持ちを信じて歩もうと思わせられる曲です。
―― 「I Love When」は甘くて官能的です。ミュージックマン・タイとの制作で印象深かったことは?
ミュージックマン・タイは私がBlue Note New Yorkで公演をした時に見に来てくれていて、それがきっかけで曲を提供したいとオファーをしてくれました。彼はすごく熱意があって刺激的な方で、何も決まってない状態でいきなり「もう日本行きのチケットを買ったから来月レコーディングを日本でしよう!」と連絡をしてくれて(笑) それから急遽スタジオを確保したりとバタバタだったんですが、いざ制作が始まるとその名前の通り次々と音楽が溢れてくる方で、1日に何曲も作りながらこれでもないあれでもないと試行錯誤を繰り返して最後にできた一曲が「I Love When」でした。
私と山内さんと、タイの3人でスタジオに入って、どうにか彼の音楽性と私たちの音楽性の間の絶妙な楽曲ができないかとタイがキーボードを弾きながら私がハミングしたりして、作曲と同時進行でレコーディングもするという新しい体験も出来た一曲です。先ほど「歌いすぎない」という話をしたのですが、この曲のようなバラードはまさにその意識が必要でした。裏声やヘッドボイスを使ったり、囁くような歌い方をして、今までにないセクシーなラブソングが出来上がりました。余裕のある大人な女性を表現出来たと思います。
―― キャロリン・マラカイとの「Freedom & Sound」はとてもポジティブなナンバーですね。キャロリンとの制作はいかがでしたか?
キャロリンはもともとレーベルメイトで、アルバム『GOLD』を聴いてから大ファンになったアーティストです。彼女とは一緒に制作をしたいとずっと思っていて、その願いが今回実現して本当に幸せでした!実際に制作が進んでいくと彼女の創る世界に魅了されて、才能に圧倒されることばかりでした。曲を作る前にスカイプで山内さんと三人で話し合い、曲や伝えたいメッセージを共有して、あとは彼女に任せました。彼女の持ち味は、メロディーのオリジナリティーとポエティックな歌詞なんですが、その持ち味が炸裂している大好きな一曲です。「自分の感覚を信じる」をテーマに、爽やかなトラックと幻想的な包みこむコーラスが背中を押してくれる、パワフルで前向きな一曲になりました。
「Make the Change」の制作メンバーを再び召喚
―― 今作は「Make the Change」を手掛けたプロデューサーHiroyuki Matsudaの仕事が光るアルバムになっています。Hiroyuki Matsudaの作る音楽のどういうところに惹かれますか?
彼が作る曲はいつも透き通った湧き水みたいに清くて、その美しさと深さが大好きで、心から尊敬しています。曲があんなに美しいのは松田さんが音楽に対して常に真摯でピュアに向き合っている心が現れているからだと思います。
いつも松田さんは「僕が作る音楽はいつも世界の誰に聞いてもらっても最高だって思ってもらえるようなものを作っている」と話されているんですが、「Make the Change」が日本を飛び出してアメリカやイギリスなど世界中のいろんな人種や言葉を話す人たちに称賛されているのは、音楽の一番ピュアな部分を形にされている結果だと思います。決して妥協を許さない素晴らしいミュージシャンであり、プロデューサーです。
今作に収録した「Spark」という曲は、今回の制作でも最後にできた一曲なんですが、「Make the Change」とはまた違った攻撃的なサビのリズムチェンジはきっとしびれますので、ぜひ聴いていただきたい注目の1曲です!
―― 今作には他にサーシャ・ヴィー、デブラ・デップス、オスキーズといった名前もクレジットされています。
サーシャもレーベルメイトで、「Make the Change」と『Rising』に収録された「Awake」という曲でも作詞をお願いしたアーティストです。ジャズとネオソウル、そしてヒップホップも融合した最先端の音楽を貫いています。彼女の創るメロディーはリズミカルで個性的、歌詞もエッジが効いていて最高にクールなので、今作で目指す方向性には欠かせないアーティストでした。「Borderless」で描かれる彼女らしい世界観はきっとその言葉の響きからも伝わるんじゃないかと思います。
デブラ・デップスは私が彼女のアルバム『LifeCycle』を聞いてからすぐにファンになったレーベルメイトで、彼女がそのアルバムのプロデューサーだったオスキーズを紹介してくれました。デブラの歌詞はいつも痛みや苦しみを知っている深みがあって、そんな彼女の人生そのものをフィルターにして出てくるリアルな言葉が大好きです。今回作詞をお願いした「Beautiful Imperfections」も“不完全であることは美しい”という、信念を感じる強いメッセージソングになっています。
オスキーズは超完璧主義の職人です。レコーディング中に印象に残っているのは、曲のテーマは”不完全な美しさ”でもオスキーズは徹底して完璧主義なので、”不完全な美しさ”を完璧を追い求めて歌うということが起こりましたね(笑)。でも彼が導いてくれたハーモニーやサウンドのおかげで素晴らしい作品が出来上がりました。

―― タワーレコード限定盤のボーナストラックには「Make the Change」のジェームス・ポイザーによるリミックスが収録されていますが、ジェームス・ポイザーといえばソウルクエリエンズの一員としてネオソウル・ムーヴメントを当初から支えていた才人です。リミックスの仕上がりを初めて聴いたときどう思いましたか?
エリカ・バドゥやジル・スコット、ディアンジェロなど私が音楽を始めてからずっと憧れてきた人たちと同じ時代のトップを走り続けてきた方に、私の楽曲をリミックスしていただけるということ自体が、未来を切り開くという意気込みで挑んだ今作の最後の仕上げのような気がしてとてもワクワクしながら聞きました。
音自体のイメージはガラッと変わっているんですが、奥深くにある信念や、それを表現する曲の神聖さはそのまま残っていて大感激でした!この曲の肝でもある中盤のリズムチェンジではぐっと音数も少なく、幻想的で神聖な森の中に迷い込んだように世界が変わったことで、サビに戻る瞬間の力強さがより意味を増しているように感じました。そしてエンディングのフルートのソロを経て、ふっと残響音を残して終焉を迎えるあたりは少し「On & On」っぽさも感じたり、最高の形で「Make the Change」が生まれ変わって本当に嬉しかったです!
―― 去年『The Light』の北米リリースを迎え、多くの称賛を集めたNaoさんですが、アメリカでの手応えはどうですか?日本人がブラックミュージックをアメリカでやるというのは、なかなか大変なことではないかと想像します。壁にぶつかったときは、どう乗り越えましたか?
ありがたい事に、SOUL TRACKSで新人賞をいただいたり、Capital Jazz Festに出させていただいたり、今まで頑張ってきたことが少しづつ実ってきました。アメリカでここまで認めてもらうまでの道のりは、もちろん簡単ではなかったです。でも魔法のように一晩で夢はかなわないし、一歩一歩進んでいくことしか道はなかった。これからもそれだけが道だと思います。
壁を乗り越える方法は、諦めずに挑み続けるというのは前提だと思うのですが、私にとって一番大切だったのは、「誰と歩むか」でした。一人でがむしゃらに壁にぶつかり続けてるとだんだん心が折れてくるのが当然です。その時に「こうしてみたら?」「この道はどうなの?」「これ使ってみなよ」って解決策を一緒に考えてくれる正しい人がいるというのは大きなことでした。絶対に信じられる人と一緒に歩む、それが私が壁を乗り越えてこられた鍵で、SWEET SOUL RECORDS、そしてYAMAHA MUSIC COMMUNICATIONSと歩めていることが私の強みだと思っています。
―― 音楽活動において、これまでで一番嬉しかったことは何でしたか?
一番嬉しいことは、私の音楽が国境を越えて人の心に届いている景色を見たときです。先にお話したBBKingでの出来事もそうですし、Capital Jazz Fest 2016でも、私が歌い終わったらスタンディングオベーションが起きて。。。
その光景を見たとき、私がやってきたことは間違ってなかった、しっかり伝わったんだと感動して、ステージの上で泣きそうになってしまうほど本当に至福の瞬間でした。これからも少しでもそんな、音楽で国境を越えて心を繋ぐ瞬間を作れるように、真摯に音楽に向き合っていきたいですね。
RELEASE INFORMATION
Nao Yoshioka 『The Truth』

- 2016.9.21
- YAMAHA MUSIC COMMUNICATIONS
- 2,700円(本体価格)+税
Tracklist
- 1. Journey (intro)
- 2. Borderless
- 3. The Truth
- 4. Freedom & Sound
- 5. Beautiful Imperfections
- 6. I Love When
- 7. Set Me Free
- 8. Spark
- 9. Journey II (Outro)
More Info: Nao Yoshioka Official Site
EVENT INFORMATION
The Truth Japan Tour 2016
Schedule
- 10月10日(月・祝) [名古屋] Nagoya Blue Note
- 10月15日(土) [福岡] ROOMS
- 10月16日(日) [大阪] 梅田 Shangri-La
- 11月2日(水) [北海道] cube garden
- 11月24日(木) [東京] 赤坂BLITZ
More Info: Tour Info