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おすすめのファンク・アルバムが完成。The New Mastersounds ニュー・マスター・サウンズの幅広さ
ファンクを聴いているとき、突然ドラム以外の音が消え、骨太なドラム・ソロが飛び出すと、血が騒いでしまうのは筆者だけではないだろう。ザ・ニュー・マスターサウンズの新作『Made for Pleasure』の1曲目の後半に、DJが2枚使いしたくなりそうな、指先の黒いプロデューサーがサンプリングしたくなるようなドラム・ブレイクが登場し、「やはりファンクはこうでないと!」とニヤリとしてしまった。現行ファンクを語る上で欠かせないUKの4ピース、ザ・ニュー・マスターサウンズのニュー・アルバムは、そういったファンクの悦び(Pleasure)を思い出させてくれる。この10作目となる作品では、コア・メンバーのエディー・ロバーツ(ギター)、ピート・シャンド(ベース)、サイモン・アレン(ドラム)、ジョー・タットン(キーボード)の4人の他に、歌姫チャーリー・ロウリーが3曲に、テナーサックスのジョー・コーエンとトランペットのマイク・オルモスからなるウェスト・コースト・ホーンズが半分以上に、パーカッショニスト/ヴィブラフォン奏者のマイク・ディロンが3曲にクレジットされており、相変わらずドがつくほどファンクな内容になっている。
とはいえ、ただのファンク・アルバムで片付けてはいけない幅広さがある。「High & Wide」など、彼らが敬愛するミーターズ調のスピーディーでダイナミックなゴリゴリのファンクもあれば、ファンキー・ソウル「Pho Baby」や、グラント・グリーンの影響が窺えるクールなソウル・ジャズ風味の「Cigar Time」、スモーキーなエレピが心地よいメロウな「Tranquilo」もあり(ここにもイントロにドラム・ブレイクが)、さらにはなんと、イギー・アゼリアのヒット曲をレゲエ/ダブ・スタイルでカバーした変化球まで入っているが、それら全てがれっきとしたニュー・マスターサウンズ節になっているところはさすがである。エディー・ロバーツに話を訊く。
―― 2011年の『Breaks from the Border』はテキサス、2012年の『Out on the Faultline』はサンフランシスコ、2014年の『Therapy』はコロラドでの制作でしたが、新作はニューオーリンズでのレコーディングです。ここ最近はアメリカで制作することが多いですね。
今はアメリカでのツアーが活動のメインになっているんだ。それに私は今、アメリカに住んでいる。サンフランシスコに住んでいたときに、サンフランシスコでレコーディングして、ニューオーリンズに住んでいたときに今回のアルバムを録音した。テキサスのときは、知り合いにスタジオを紹介してもらって借りただけで、実際にテキサスに住んでいたわけではなかったけどね。この新作は2年前に制作したんだ。今はコロラド州デンバーに住んでいるけど、ここの音楽シーンも面白いね。他のバンドメンバーは今もヨーロッパ在住だ。
―― ニューオーリンズと言えば、ジャズ発祥の地であり、ミーターズなどを輩出したファンクの街でもあります。この街の影響は作品に現れたと思いますか?
ニューオーリンズみたいな場所にいたら、やはり影響を受けずにはいられない。具体的にどういう影響があったかというのは言葉にするのが難しいけど、あの場所にいただけで感じるものはあったね。大晦日にニューオーリンズでライブをやって、そのままバンドメンバーがニューオーリンズにいる間にスタジオを予約して制作したんだ。色々な人から同じ質問をされたけど、(どういう影響があったのか)ズバリと答えるのは難しい。でもニューオーリンズだからこそ生まれる音というのは確実にあると思う。使用したLiving Roomというスタジオはとても歴史のあるところで、機材やアンプが全て年季の入ったものだったことも、今回の作品の色として反映されていると思う。

前作Album、The New Mastersounds 『Therapy』からの変化
―― 前作『Therapy』などと比べ、今回のアプローチには変化がありましたか?
私たちは毎回、それほどコンセプトというものをがっちり決めて制作しているわけではないんだ。特別なアプローチといったものはなくて、みんなのスケジュールが合う一週間を確保して、「よし、アルバムを作ろう」と協力して音楽をひねり出している。事前に準備してからスタジオ入りするのではなく、スタジオの中で最初から作り上げていくんだ。でも今回は、ホーン隊を制作段階で呼んだのがよかったね。これまでは4人で楽曲を作ってからホーン隊を呼んでオーバーダブをしていたけど、今回は曲によっては最初からいてもらって、6人で一緒にテイクを録ることもあったから、彼らの意見をこれまで以上に反映させることができた。
―― 『Made for Pleasure』というタイトルの由来は?
タイトルを決めるのは毎回すごく難しくて、延々と考えることあるけど、これは何かのときに耳にして、なんとなくしっくりきたからこれにしようと決めたんだ。たぶんTrojan(註:コンドーム・ブランド)のCMか何かじゃないかな(笑)? 半分冗談でこのフレーズを提案してみたけど、結局一番しっくりきたのがこれだった。Pleasure(快楽)を提供するのがこのバンドのモットーだし、この言葉はニューオーリンズという街そのものを象徴しているとも言える。
チャーリー・ロウリーが3曲のアップテンポなソウル・ナンバーで歌声を披露していますが、彼女とはどういった経緯で知り合ったのですか?
彼女とは2年ほど前にノースカロライナのライブで一緒になったんだ。サウンドチェックのときに彼女が歌い出したのを聴いて、すぐに彼女の声の虜になった。彼女はネイティヴ・アメリカンで、自分の部族の代弁者でもある。「Enough Is Enough」は彼女の血筋や部族の気持ちを表現している曲なんだ。ライブで彼女と何回か共演したあと、アルバムを制作すると決まったときに彼女をスタジオに招いて、作曲にも関わってもらった。
―― 「Let’s Do Another」はブラックスプロイテーション映画のサントラに入っていてもおかしくなさそうなミステリアスなムードが漂う曲で、マイク・ディロンのヴィブラフォンやパーカッション演奏がいい味わいを出しています。
マイクとは5年ほど前から一緒によく共演してきた。彼はニューオーリンズに住んでいるから、ツアーでニューオーリンズに来たときは毎回一緒に演奏していたんだ。アルバム制作のとき、彼はJam Cruiseというカリブ海を巡るクルーズ客船の音楽フェスから戻ってきたばかりで、空港から自宅に帰らずに直接スタジオに来てくれた。それがレコーディング最終日のことで、ギリギリで参加してもらえたんだ。5日間船に乗っていたあとすぐに来てくれたんだから、たいした男だね。
―― イギー・アゼリアの「Fancy」をカバーしていると知ったときは驚きましたが、レゲエ化されているのを聴いてさらに驚きました。このアイディアはどうやって思いついたのですか?
19歳の娘のアイディアなんだ。彼女に「曲をカバーしたいんだけど何がいいかな?」と訊いて、提案されたうちの1曲だ。でも彼女は、「イギーのバージョンじゃなくてこっちを聴いて」と、BBC Radio 1でイギリスのバンドがアコースティック・カバーをやっていたのを聴かせてくれた。そのバンドの名前は忘れてしまったけど(註:おそらくカサビアン)、それを聴いたとき「なるほど、これならいけるな」と思ったが、同時にレゲエ・スタイルでやったら面白そうだと考えたんだ。娘が私を説得したように、今度は私がバンドを説得する番だった。「とりあえず、私を信じてくれ」と言い続けてどうにか説得したんだ(笑)。いつも私はカバーのアイディアを子供たちからもらっている。子供たちは私とは違う形で、最近の音楽にアンテナを張っているからね。
―― この曲にはスペルバインダーというレゲエ・アーティストがフィーチャーされています。
ある週末、アルバムの最終ミックスをするためにデンバーのスタジオをブッキングしていたけど、その前の木曜日にバーでたまたまレゲエDJのトースティングを聴いたんだ。最初はてっきりプレイされている楽曲の一部だと思ったけど、見てみたらマイクを握って実際にトースティングをしている人がいた。格好よかったから、彼に話しかけて「今週末、時間はあるかい?」と誘ってみた。日曜日の朝、スタジオに来た彼は2時間くらいフリースタイルをやってくれた。何テイクか録って、それを編集したんだ。彼は素晴らしいアーティストだよ。
新作音源には、名作カバー曲が並ぶ
―― フィッシュの「Cars, Trucks, Buses」もカバーしていますね。
アメリカに来るまでここにジャム・シーンというものがあることを知らなかったが、フィッシュが出演するイベントで私たちがライブをやることもあるし、私たちのファンの中にはフィッシュやジャム・シーンのファンも多いんだ。それまでフィッシュのことはほとんど知らなかったけど、知り合いのフィッシュ・ファンに色々と聴かせてもらって、この曲ならいけるなと考えたのがこれだった。アメリカのファンのためにアルバムに入れたという理由が大きいかな。このカバーではミーターズの「Live Wire」のグルーヴを拝借している。ミーターズとフィッシュのマッシュアップという感じだね(笑)。
―― デイヴ・パイク・セット「Sitting on My Knees」のカバーはあなたのギターが主体になっていて、少しアグレッシヴさのある解釈になっているのが面白かったです。
以前、オルガン・トリオをやっていたことがあるけど、ずっと前からこの曲が好きで、よくトリオでカバーしていたんだ。それをニュー・マスターサウンズでやってみたかった。ライブではたまに演奏していたが、改めてしっかりレコーディングしてみようと思ったんだ。
―― キーボードのジョー・タットンは2007年の加入ですが、ピートやサイモンとはもう15年以上ともに活動しています。バンドとして、これほど長く結束力が続いている秘訣はなんですか?
バンドとしてはもう16年になるね。サイモンとは18年、ピートとは22年も一緒にやっているんだ。同じシーンの出身であることが大きいんじゃないかな。同じUKのディープ・ファンク・シーンから出て来たから、感覚が近い。それに互いのことを熟知しているし、信頼し合っている。アメリカのミュージシャンとかとプレイすると、アプローチが少し違うと感じることがあるんだ。それと、なによりも大事なのは友情だ。人柄と音楽は、切っても切り離せないものだと思う。嫌な野郎とは一緒に音楽はできないね。
Words by Danny Masao Winston Photos courtesy of P-Vine
RELEASE INFORMATION
The New Mastersounds 『Made for Pleasure』
