「空と海が許し合う頃。夏の物語は始まる」
THREE1989の新作EP『The Sunset Fiction』のインフォメーションの一文。さらに読み進めると、各サブスクリプションサービスで先行配信の「Summer Venus」を含む7曲が収録されたEPだということ。J-WAVE SONAR TRAXに選出された話題の「Utopia」(2020年5月度)を始め、これまでリリースされたTHREE1989のサマーソング3曲を再レコーディング、リマスタリングし“Album Edition” として新たに収録したということ。
音源も全てチェックし、アルバム全体を通して大人な雰囲気が漂う夏の1日を感じるEPとなっている本作について、ボーカルのShohey、DJ Datch、キーボードShimoの3名に、EPの制作過程や想い、今までリリースされた楽曲の再録の理由、さらにクラウドファンディングでのレコード制作&ミュージックビデオ制作まで話を伺った。
まずは、新作EP『The Sunset Fiction』のコンセプト、EPとしてまとめた理由を教えて下さい。
Shohey: 30代を迎えたTHREE1989が出すべき夏のアルバムは?という問いから始まりました。爽やかにハジける夏よりも、少しだけ大人なメロウな夏をテーマに夕暮れから夜そして朝を迎える時に聴いて欲しいそんなアルバムになっています。
Datch: 夏の曲がTHREE1989には多く、夏の1日をコンセプトに一つアルバムにするのは面白いのではないか?ということから制作に至りました。夕暮れ曲「Outro」からスタートし、アルバム全体を通して大人な雰囲気漂う夏の情景を感じる作品になっています。
Shimo: 一枚通してある夏の物語を表しています。なのでそれぞれの楽曲が持つ雰囲気があって、例えば「Utopia」だったら夕陽、そして「Hotel ジェリーフィッシュ」は朝方、この間にある夜が「Summer Venus」です。そして、このEPは1日の終わりから始まるんですよね。なのでイントロは「Outro」で1日の終わり、つまり夕陽(サンセット)からはじまる物語ということです。実はこのEP配信のきっかけが『初のレコード制作&長編MV制作』というテーマとなりクラウドファンディングを行うことになりました。この夏、様々なイベント中止も相次ぎ、遊びにもいけない中、何か夏の楽しみが欲しいという思いの元立ち上げたプロジェクトでした。

『The Sunset Fiction』ですが、いつから構想し、制作を経て完成させたのでしょうか? 制作の過程を教えて下さい。
Shimo: 先ほど触れた夏のプロジェクト(クラウドファンディング)を企画したのが6月頃からでした。そこで、今年4月に配信した「Utopia」や昨年10週連続リリース企画の「Hotelジェリーフィッシュ」を軸に、夏のドライブに聴ける一枚が欲しいということで今回制作しました。緊急事態事態宣言があけた頃でしたが、極力密は避けようということで最後のミックスやマスタリング以外は、ほとんどリモートでの作業でしたね。
Shohey: 制作はメンバー全員自宅で進めて行きました。まず5月の初めから6月まで4週にわたって連続リリースをしようという流れになりまして。というのも、自粛期間中にリスナーの皆さんも僕らもライブという一つの楽しみを失ったわけで。その心の隙間を埋める事の出来る、何か毎週一つ楽しみにできるものは無いか?と考えた時に連続リリースをしようという流れになりました。僕らは作詞作曲から編曲まで全て自分たちだけで完結する事が出来るのと、去年10週間連続リリースを既にやっていたので、これが強みだと思い早速取り掛かりました。1週間で作詞作曲からマスタリングまで仕上げてリリースするという怒涛のスケジュールでしたが、おかげで「Utopia」というニューアルバムに入ることになったイチオシ曲を作る事ができました。それから「Utopia」はJ-WAVEのSonar Tracksに選ばれてパワープレイして頂きました。
Datch: 5月に行った毎週連続リリース企画で出来た「Utopia」という曲がひとつ大きなきっかけでした。その後、メンバーと話した際に、少し落ち着いた夏のアルバムを作ろうという話になり、1日の流れをイメージして新曲を書き下ろしました。
7月に配信リリースされた「Summer Venus」はとても素敵な楽曲ですね。心地良いダンサブルな楽曲でストリングスやシンセサイザー、そしてトークボックスがはまっています。
Shimo: ありがとうございます。今回のコンセプトで構想すると丁度、夏の夜の部分が足りなかったので、この曲だけこのEPの為に書き下ろした曲になりますね。トークボックスも「Love me do…」と歌っていたり。最後にはトークボックスのソロでフェードアウトしていくんですが、ここだけの話、最初歌っていた時息が続かなくて(笑)。ボコーダーと違って実際に声を出しているわけじゃないんですが、やはり息継ぎのポイントも大事です。そしてシンセソロにするかトークボックスソロかと悩んでいたんですが、メンバーから絶対トークボークスの方が良い!と強い推しがあったので、EPの中でも強い存在感を出せてるんじゃないかなと思います。
Datch: この楽曲はまさにコンセプトの中から生まれた楽曲です。「Utopia」の夕暮れの景色から物語が始まり「Hotel ジェリーフィッシュ」で宿泊していたホテルを後にする。その間に位置する時間帯をイメージした曲を一曲書こうということで制作しました。
Shohey: 今回のアルバムの中でも他の曲を引き立てる、そしてTHREE1989の新しい面を魅せるそんな思いで制作しました。まずはShimoに元のトラックを依頼して、自分が作詞作曲をするところまではスムーズでした。それだけだと、これまでのTHREE1989の要素はバッチリだったのですが、もう一癖欲しくて。それで、ライブでshimoが多用してるトークボックスを始めて楽曲に歌詞入りで起用することにしました。スタジオで何回も何回もフレーズを考えては録り直し、曲の中で一番ダンサブルなパートが仕上がりました。2020年以降はトークボックスも多用した楽曲作りも軸に新たなTHREE1989節を魅せていければと思ってます。

「Utopia」や昨年リリースされたMidas Hutchの「HOTEL ジェリーフィッシュ」「Part Time Summer」が、Album Editionとして新たに収録されていますが、この3曲はどのようなイメージでの再録になるのか教えて下さい。
Datch: リリースした当初は、当時の自分たちが納得できるものをリリースしているのですが、その後ライブで演奏したりしていくうちに、「ここはこうしたいな」って思ったり、時間を置いて聴いてみることで新たなアイデアがたくさん浮かんだりします。より自分達が良いと思った風に楽曲をどんどん昇華させていきたい、そんな想いから新たにAlbum Editionとして収録しました。
Shimo: 全体的に変わったのがボーカルの再録です。今回のためにマイクを新調したといっても過言ではなく、その結果、より声が鮮明に聴こえるようになり、またコーラスワークも新たなラインが加わったりと、よく聴けば至る所に変化を感じられます。Midas Hutchとの2曲はクラブなどでもDJが流しやすい様に前奏にビートを加えたりしています。
Shohey: 現代はサブスクが主流になる中でアルバムとして聴くことは少なくなって来てると感じてました。でもアーティストのエゴとしてはアルバムとして一つの作品なのでどうにか流れで聴いてもらいたいなと。そして、昨年の10週間連続リリース企画をしてる中で挙がっていた話がありました。それは、シングルとして出した作品を後にアルバムバージョンとしてアレンジを変えてリリースするという事でした。また、昨年出した作品はその時の僕らのベストを尽くしたカタチ。今回再録する作品は今年の僕達のベストを尽くしたカタチ。一年で歌い方やアレンジの成長があることも聴き比べして楽しんで欲しいです。

メンバーの皆さんそれぞれで、聴いて欲しい楽曲や、それにまつわる秘話があると思います。そちらのお話を伺えればと思います。
Shohey: 「Part Time Summer」に関しては、サビの後に”It’s Part Time Summer〜♪夏の性〜♪”と続くのですが、僕の歌い方の癖的に、「夏の性」が「夏のおっさんが」に聴こえると指摘を受けまして。今回の再録ではめちゃくちゃ意識して「夏の性」と聴こえるようにレコーディングしましたので聴き比べて頂ければ幸いです(笑)。
Shimo: 今回は歌モノ以外にもスキャットが収録されているんです。「Utopia」終わりに(日没)ホテルまでの道のりの中、海岸を歩いているイメージで「Silhouette」を制作したんですが、実際にMVのロケ地でもある熱海の砂浜で波の音を録音して、その音を冒頭に使用しています。ちなみにマイクはiPhoneなどの携帯端末に接続できるSHUREのMV88Aです。僕は冒頭に波の音を15分くらい流してもいいかなって思ったんですが、レコードの収録時間内に収まりきらないので諦めました。冗談です(笑)。
Datch: 僕はミックス作業を担当しているのですが黙々と一人でミックスしていると本当になにかとずっと一人で闘っているような気持ちになりました。

THREE1989のオンラインストアでは、クラウドファンディングで制作された「The Sunset Fiction」のアナログ盤の予約受付を実施しています。アナログ盤への想いやクラウドファンディングで制作を進めた理由をお聞かせ下さい。
Shohey: レーベルも事務所もインデペンデントでやっていた中で、製作費というものは無く、CDや配信をした売り上げを元にこれまで制作してきました。以前から、リスナーからの要望でアナログ盤が欲しいとの声が上がっていたり、ミュージシャンとしてアナログ盤への憧れもありました。自分達で生産し、販売する形でも良かったのですが、4週間連続リリースも終わった時、更なるリスナーの楽しみは何だろうと考えた時に、こちらからリリースするモノを浴びるだけではなく、一緒に制作過程を味わう事だと考えました。しかもアルバムと長編ミュージックビデオ制作なら定期的な活動報告(舞台裏を見せる)をすることにより2ヶ月間は楽しみが続くだろうと。
Datch: アナログ盤は、やはりあの12inchレコードのジャケットの存在感や、レコード独特の暖かなサウンドだったりCD世代の僕らにとっては一度は販売したいとずっと思っていました。最近は個人で自由にプレイリスト作ったり自分の好きな曲順で聴いたりするのが普通ですが、順番通りに聴くことに意味がある今回のアルバムにはぴったりだと思いました。クラウドファンディングに関しては、楽しみが減ってしまった状況下でもファンと何か共有できることはないかとそういう想いから出た企画でした。ライブまでの日数が待ち遠しかったり注文した商品が届くまでの楽しみだったり。何か先に楽しみがあることによって長くモチベーションを保てたり、前向きな気持ちになれたり。僕らを通して少しでもこの夏を楽しんでくれてたら嬉しいです。
Shimo: ストリーミングの視聴が主流の世の中にアナログレコードをメインに制作した上に曲順にもこだわった理由は、まずは一番に自分たちの願望があるのかもしれません。世代で区別すると僕らはCD世代になり、先人の方々が経てきた様にレコードへの憧れみたいなものが必ずあると思います。そして次に世知辛い世の中だからこそ心に余裕を持って聴いて欲しいという想いもあります。レコードを聴くのにはやはり手間がかかりますからね。またプレイリストで楽曲単体が第三者の枠にはまる時代で、アルバムにストーリー性を持たしたのは、もう一度『アルバムの意味』というものにフォーカスして欲しいと考えたからです。
メンバー皆さんが自らディレクションした長編ミュージックビデオが配信されると伺いました。
Datch: 曲中に出てくる「Hotel ジェリーフィッシュ」を舞台に物語りが進んでいくのですが、このアルバムを通して一つの物語になっています。なのでMVの内容に関しても曲順通りに物語や時間が経過していくので、アルバムを最初から順番通りに聴いて欲しいなと思っています。アルバムを通しての撮影は曲数もかなり多く、梅雨時期に撮影ということもあり天候になかなか恵まれなかったのですが、それでも合間に凄い奇跡的な空になったり、物語とは別に映像の美しさだったりにも注目して欲しいです。
Shohey: 元々僕は映画が好きで、将来映画を作るのが夢でした。そんな話から自分たちでディレクションした長編ミュージックビデオを制作しようという話になりました。製作陣とZOOMで構想を練り、ロケ地を決め、ロケ地には自分たちで運転し、モデルさんの手配や助手など、スタッフとしての役割も行いつつ出演し、ディレクションするというめちゃめちゃ忙しいスケジュールでしたが、何とか出来ました(笑)。物語は「Hotel ジェリーフィッシュ」を軸とした三人の想いが交錯する夏の群像劇です。アルバム全ての楽曲のMusic Videoを撮りました。20分超の短編映画作品をお楽しみに。
Shimo: 今のところクラウドファンディング支援者の方のみの公開を予定しているので、細かい部分まではお話しできませんが一曲目の「Utopia」の舞台は海辺で、そこから夜になるとホテルへ戻り男女のダンスシーンがあり、最後はホテルを後にして車で帰るという流れになっています。その各楽曲の中でメンバーそれぞれにスポットライトを当てているのでファンの方はそこも見所だと思います。

The Sunset Fiction
THREE1989
2020.08.15デジタルリリース
https://big-up.style/b272VSTTwe
- Outro
- Utopia (Album Edition)
- silhouette
- Summer Venus
- HOTEL ジェリーフィッシュ
prod. by Midas Hutch (Album Edition) - Hysteric July
- Part Time Summer
prod. by Midas Hutch (Album Edition)