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ニューアルバムのプレリリースライブを行った、今最も注目すべき日本のバンドWONKの魅力に迫る。
「WONKという格好良いバンドがいる」
そんな噂を耳にしたのは今年の1月ごろ。プロモーションビデオを再生してみると、暖かいキーボードの音色やヒップホップ以降のズレたドラムリズムが白黒の映像と一緒に流れる。かなり好みであった。ジャズの教養をバックグランドに持ちながらヒップホップやネオソウルを組み合わせた現代的な作品を生み出しているミュージシャンや、ヒップホップの洗礼を受けたあとに楽器を始め、サンプリング・ビートの感覚を生演奏で再現しているバンドなどがアメリカだけでなく世界各地から飛び出している昨今、ここ日本でも確実にその流れを汲んだバンドが登場していることを嬉しく思った。
WONKはドラマーのHikaru ARATA、ヴォーカリストのKento NAGATSUKA、キーボーディストのAyatake EZAKI、そしてベーシストのKan INOUEから成る4ピース。トラックメイカーでもあるHikaru ARATAが作るサンプリング・ビートが楽曲の土台となっており、ヒップホップ的なドラミングの上にメロウで心地良いコードやメロディーが乗せられていくというスタイルだが、ただのオシャレでキレイな音楽で終わっていないところが彼らの魅力。自身を“エクスペリメンタル・ソウルバンド”と呼ぶだけあり、テンポが突然切り替わったり、変拍子が大胆にも組み込まれていたりと、ただのラウンジ・ミュージックに落ち着くことなくリスナーの予想を裏切る。ヴォーカリストのKento NAGATSUKAのバックグランドがロックであり、歌い方がいわゆるR&B〜ネオソウル系シンガーとはひと味違うのも特徴だろう。
そんな彼らがついに1stフル・アルバム『Sphere』をリリースする。全国流通は9月14日に開始するが、一足先にJAZZY SPORT SHIMOKITAZAWAでの先行リリースが8月14日から開始しており、発売を記念して14日に店内でインストアライブが行われた。去年下北沢にオープンしたばかりの同店はダンススタジオが併設された音楽ショップであり、JAZZY SPORTらしい審美眼で良質なレコードやCD、服を取り揃えている。このこじんまりとした空間が、WONKの4人が奏でる音色で満たされた。




彼らを初めて生で見たのは2月に行われたNEW SWEETIEというイベントの第一回目だった。その時点では『From The Inheritance』というEPを公開していたが、即興セッションやソロの時間を設けたり、ラッパーや管楽器奏者がゲスト参加したりと、EPの曲をただやるだけではないライブ感のあるパフォーマンスが印象的であり、ライブを見てこそのバンドだと感じた(NEW SWEETIEの模様はVol.1とVol.3のライブレポートを参照)。今回のリリースライブでは4人のみのミニマルな編成であり、それゆえにこれまで以上に素朴さと親密さに溢れるライブとなった。
WONKはメンバー紹介や告知など最低限のMC以外は曲間に言葉をあまり挟めず、音だけで自分たちの世界観にオーディエンスを引き込むのが得意。ヴォーカルのいるバンドだとどうしても“歌“が主役になりがちだが、WONKの場合は(声も含め)“音”が主役であり、ヴォーカルが横にそれてドラム、ベース、キーボードの3人にスポットライトを譲るシーンも多い。とくにHikaru ARATAが刻む変則ビートがWONKの楽曲を引っ張っているのは一目瞭然。「俺について来れるか」と他のメンバー、ひいてはオーディエンスを試すかのようにリズムを溜め、速め、遅らせる。それにAyatake EZAKIとKan INOUEが呼応し、心地良いところでカチっとはまるグルーヴが生み出されていく。そしてそのなかでKento NAGATSUKAの繊細ながら芯のある歌声が聴く者の心をとらえ、揺さぶる。




アンコールはなんとディアンジェロの『Voodoo』より「Africa」。神秘的で浮遊感のある原曲の空気感を絶妙に再現しながら、原曲よりもダイナミックでパワフルなアレンジを展開。『Voodoo』はネオソウル文脈では神格化されているが、その名盤の1曲に挑戦するという大胆さ、そしてただ原曲をなぞるのではなく自分たちなりの解釈をしっかりと提示しているところに脱帽した。




ライブはあっという間に終わってしまったが、アルバム『Sphere』の魅力を垣間見ることができ、日本のクロスオーバー・ジャズの最先端を目の当たりにすることができた素晴らしいライブであった。
(アルバムの詳細はこちら)
WONK INTERVIEW
ライブ後、WONKに少しだけ話を聞くことができた。

−− アルバム『Sphere』の楽曲を通して一番表現したかったこと、伝えたかったことは何ですか?
Kento NAGATSUKA: 海外にTOKYOのブラックミュージックを届けることを強く意識しているから、歌詞はほぼ全て英語で作詞しています。現代の東京で生きる人々の様子を書いて。異常な程なんでもかんでもがごちゃまぜで独特なカルチャーが溢れてる土地だからこそ、そこに存在する自分達はもっと自由に好き勝手な生き方をしてていいっていう想いがあって。「D.O.F」とか特にそうだけど、そういう気持ちを訴えてる感じです。
−− アルバムの制作において意識したこと、こだわったことは?
Hikaru ARATA: あまりライブでの演奏という面は意識せず、アルバム単体で作品として成り立つよう意識しました。前作のEP『From The Inheritance』では、スタジオでのセッションの中で楽曲を構築していったのですが、今回はサンプリングベースの制作であったり、構成・アレンジであったりを綿密に考えて作品を仕上げていきました。前作と明らかに違うのが、制作現場がスタジオから家になったっていう点ですね。それに加え、石若駿、JUA、 DIAN(KANDYTOWN)、Tweli G、Onetwenty、安藤康平、Patriq Moodyといった同世代ミュージシャンにフィーチャリング・アーティストとして参加してもらったことは、サウンドメイキングの面において大きかったなと思います。彼らの持ち味が作品に加わったことで、メンバーだけでは出せないフィールを出すことができました。
−− ライブではどういう工夫をしていますか?
Hikaru ARATA: ライブではあまりアルバム作品をそのまま再現しようとは思っていません。基本的にメンバーの演奏スタイルがジャズをベースにしているので、その場の雰囲気やバンド内でのインタープレイを大切にしながら演奏をしています。ライブによっては、ラッパーにゲスト参加してもらい、フリースタイル形式でインプロするなどして、その場で生まれる音楽を楽しんでいます。
−− WONKとしての今後の目標は?
Hikaru ARATA: 将来的には海外で評価してもらえるようなバンドになりたいですね。今日のブラックミュージックのシーンは、ハイエイタス・カイヨーテやバッドバッドノットグッド、ムーンチャイルドといったアーティストからも感じられるように、単なる本流の真似ごとではなく、それぞれの国や地域において土着のスタイルと結びつきながら、様々な伝統を引き継ぎながら新しい表現技法が次々に生み出されていて。WONKはそういったシーンの一端を担えればと思っています。世界的なジャズ、ヒップホップ、R&B、ソウルの再合流に対する、日本からの回答になればな、と思っています。
Words by Danny Masao Winston Photos by Masanobu Kita
ARTIST PROFILE

WONK
- Kento NAGATSUKA / Vocal
- Ayatake EZAKI / Keyboard
- Kan INOUE / Bass
- Hikaru ARATA / Drums
東京を中心に活動する“エクスペリメンタル・ソウルバンド”。2015年1月に発表したフリーアルバム「From The Inheritance」は『文化系のためのヒップホップ入門』の著者・大和田俊之氏に取り上げられるなど、今注目の若手バンド。ジャズやソウル、ヒップホップなどのジャンルをクロスオーバーに行き来し、その独創性の高さや特別編成での圧巻のライブパフォーマンスは、既に各メディアで「世界水準のサウンド」を評され話題となっている。
WONK HP
WONK Live Info
- 8/20(土) @新宿NEWoman w/Nao Kawamura、Shuns’ke G & The Peas ほか
- 9/9(金) NEW SWEETIE Vol.4 @代々木ANCE w/ maco marets, 小林うてな