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Kiss Kiss Double Jab

Label : Heavenly Sweetness

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最近はクラブ・ジャズ系をリリースするレーベルも少なくなってしまったが、そうした中でフランスのヘヴンリー・スウィートネスは、地道な活動ながらも良質な作品を届けてくれ、信頼のおけるレーベルのひとつだ。クラブ・シーンに目を向けながらも、その作品自体はメインストリームでも通用するものであり、またダグ・ハモンド、ジョン・ベッチなど1960年代から活動する伝説的なプレーヤーたちの新録をリリースしたこともある。ジャズにとどまらずダブ/レゲエ系のブランデット、ヒップホップ/ファンク系のガッツなど、厳選されたよい音楽を伝えるレーベルだ。そのヘヴンリーを代表するジャズ・バンドのひとつがロンゲッツ・ファウンデーションで、かれこれ10年ほどのキャリアを積み重ねている。リーダーはフランス人トランペット奏者のステファン・ロンゲッツだが、彼はブルーノ・オヴァール率いるメトロポリタン・ジャズ・アフェアのメンバーとしても知られる。ジョン・ベッチが参加したファースト・アルバムより、60年代のハード・バップ、モーダル・ジャズ、ソウル・ジャズ、70年代のジャズ・ファンク、スピリチュアル・ジャズなどに影響を受けた演奏を行ってきた。2012年の『Brooklyn Butterfly』はブルックリンに遠征しての録音で、グレゴリー・ポーター、元ジャネイでロイ・ハーグローヴのRHファクターにも参加したレニー・ヌーブルとの共演が話題を呼んだ。そして、それから3年ぶりとなる通算4枚目のアルバムが『Kiss Kiss Double Jab』である。今回もニューヨークでの録音のようだ。
 
ファーストではジョン・ベッチ、セカンドではデイヴ・シュニッターと、彼らは自分たちが影響を受けたヴェテランや重鎮ミュージシャン(一般的なジャズの世界においてはマイナーなアーティストたちだが)との共演を繰り広げてきたが、今回は熱望していたゲイリー・バーツとの共演が実現した。アメリカ・ジャズ界の大ヴェテラン・サックス奏者だが、特にスピリチュアル・ジャズの文脈でも巨星としてクラブ・ファンから尊敬を集めている。そのほかにもスティーヴ・トゥーレ、モネット・サドラーら、こうしたスピリチュアル・ジャズ系を聴く人にとっては馴染み深いプレーヤーの参加が目を引く。また、女流詩人のソニア・サンチェスを交え、ジャズとポエトリー・リーディングの融合を行っている。ジャズとスポークンワードの関係性はアシッド・ジャズの頃から重要な要素で、ダナ・ブライアント、アーシュラ・ラッカー、バイカといった魅力的な女性ポエトたちが登場してきた。本作もそうした系譜に属するものといえる。さらにソニア以外にも複数の女性シンガーが参加し、演奏とヴォーカルが強く結びついている。「Hip Hop Muse」での歌もポエトリー・リーディングからの影響を感じさせるヴォーカリーズ的唱法で、ヒップホップのビートを用いているわけではないが、ジャズとヒップホップ、そしてポエトリー・リーディングは底辺で繋がっていることを知らしめてくれるようだ。
 
そして、何といっても「Murilley」のカヴァーだろう。チャールズ・アーランドのこの曲は、80年代よりジャズ・ダンサーたちの聖典として愛されてきたが、ここではややテンポ・アップし、ヴォーカルも男性から女性へ変わっている。原曲のパッション溢れるソウルフルなムードを、さらに高揚感と力強さ溢れるものへとヴァージョン・アップしており、これこそがクラブ・ジャズたるべきナンバーではないだろうか。最近はニューヨークのジャズというと、ロバート・グラスパー周辺やその世代ばかりがクローズ・アップされるが、本作にはそうした雰囲気はない(敢えて共通項を見出すなら、ややネオ・ソウル的フィーリングを持ち込んだ表題曲がエクスペリメントに通じるか)。いわば昔気質なジャズといえる。でも、決してコンテンポラリーなものばかりがニューヨークの現在のジャズではないことを、本作のバーツをはじめとしたヴェテランたちは身をもって教えてくれるのではないだろうか。

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