別でレビューが掲載されるテイラー・マクファーリンと同様に、数枚のシングル・リリースや他アーティストのフィーチャリング・シンガーとしての活動など、既にキャリアは十分のファティマが、ようやく初のアルバムを発表した。彼女はフローティング・ポインツの諸作で重要な役割を担っており、そうしたこともあって本作のメイン・プロデューサーはフローティング・ポインツことサム・シェパードで、彼が主宰するEglo (エグロ)からのリリース。他にセオ・パリッシュが共同プロデュースした作品もあり、fLako (フラーコ)、Oh No (オー・ノー)、コンピューター・ジェイ、ノウレッジら新世代のヒップホップ勢もトラック制作に協力している。
彼女の声質はエリカ・バドゥを若くしたようでもあり、トラックの類似性もあってジョージア・アン・マルドロウあたりが思い浮かぶだろう。オー・ノーが手掛ける「Technology」のクールなヴォーカルがそんなイメージだ。ただ、フローティング・ポインツを除き、個人的には彼女ともっとも相性がいいのはフラーコだと思う。先行シングル・カットされた「Family」と「La Neta」が彼の手掛ける曲で、チャイムを用いた特有の儚くも美しいトラックと交わる彼女の声は、実に繊細で情感豊か。どこか素朴なアフリカ民謡を思わせるところもある。こうしたフィーリングは、近年で言えばザラ・マクファーレンからも感じられるものだし、例えばブレインフィーダーのTeebs(ティーブス)あたりとコラボしても面白いのではないかと思う。
サム・シェパードの手掛ける作品もダウン・テンポやネオ・ソウル、もしくはビート・ミュージック的なもので、フローティング・ポインツとはまた異なる面を見せてくれて興味深い。セオ・パリッシュと共同制作した「Do Better」は管楽器のアンサンブルも見事で、かつての4ヒーローやノスタルジア77あたりに匹敵する楽曲と言えよう。そして、フェンダー・ローズとファティマのヴォーカルのみで綴る「Gave Me My Name」の深遠さが素晴らしい。この曲を聴けば、彼女はアビー・リンカーンやディー・ディー・ブリッジウォーターらの系譜を、今に引き継ぐジャズ・シンガーであることがわかるのではないだろうか。
Reviewed by Ogawa